疾患概要
(研究者・医療関係者の方向け)

WAGR症候群(WT1とPAX6を含む11p13欠失症候群)

概要

1. 概要

染色体11p13領域の欠失により引き起こされる隣接遺伝子症候群である。同領域内の欠失によってウィルムス腫瘍(Wilms’ Tumor)、無虹彩症(Aniridia)、泌尿生殖器異常(Genito-Urinary Anomalies)、精神発達遅滞(mental Retardation)を示すことから、症状の英語頭文字をとってWAGR症候群とされている。

2. 原因

11p13領域には無虹彩症の原因となるPAX6が含まれており、片アリル欠失によって無虹彩症を生じる。PAX6のセントロメア側約600-kbの位置にはWT1が位置しており、WT1の片アリル欠失によって先天性泌尿生殖器異常、学童期までの間のウィルムス腫瘍、さらに晩発性腎機能障害の発症リスクともなる。染色体微細欠失の範囲は患者によってランダムであり、生殖細胞系列において偶発的に生じている。PAX6のテロメア側約4-Mbの領域に位置するBDNF遺伝子は発達障害に関連していると考えられており、欠失領域にBDNFが含まれると神経発達症の原因になると考えられている。

3. 症状

乳児期に羞明を契機に無虹彩症として診断されることが診断の契機になることが多い。泌尿生殖器異常は先天的に生じている可能性があるため、泌尿器科的な精査によて初めて診断可能である。また、ウィルムス腫瘍は、学童期までのスクリーニング検査で早期発見される。晩発性腎機能障害は思春期以降明らかになる場合がある。精神発達遅滞は幼児期に発達の遅れや多動などとして認識される場合が多い。

4. 治療法

 無虹彩症については眼科的な対応が必要である。先天性泌尿生殖器異常が認められた場合には、泌尿器科的に対応する。スクリーニング検査でウィルムス腫瘍が早期発見された場合には、将来的な晩発性腎機能障害への影響も考慮し、外科と協力して治療方針を決定する必要がある。

5. 予後

 生命予後はウィルムス腫瘍の治療成績より、晩発性腎機能障害に依存していると考えられているが正確な長期予後は不明である。

要件の判定に必要な事項

1. 患者数

 本邦での正確な患者数は不明であるが、100名以上存在していると考えられている。

2. 発病の機構

 PAX6WT1を含む染色体11p13領域の欠失が原因ある。

3. 効果的な治療方法

 未確立 (根本的な治療法はない)

4. 長期の療養

 必要 (生涯にわたり症状が持続する)

5. 診断基準

あり(研究班が作成した診断基準あり)

6.  重症度分類

<重症度分類>

1)に該当する者を対象とする。

1)modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。

なお、ウイルムス腫瘍や慢性腎機能障害については、それぞれ個別の障害認定を考慮する。

診断基準

Definiteを対象とする。

WAGR症候群(WT1PAX6を含む11p13欠失症候群)の診断基準

A.症状

【大症状】

  1. 無虹彩症(指定難病の基準を参照)
  2. 腎尿路系奇形
  3. 精神運動発達遅滞

*Iは必須項目。その他は必須ではない。

【小症状】(合併しうる症状)

  1. Wilms腫瘍
  2. 腎機能障害
  3. 神経発達症
  4. 肥満
  5. 四肢の異常
  6. その他

B.検査所見

上記症状よりWAGR症候群が疑われた患者において、マイクロアレイ染色体検査を含む何らかの遺伝学的検査により11p13領域のPAX6WT1を含む領域の欠失を確認することにより確定される。ただし、11p13欠失領域がPAX6WT1そのものを含んでいない場合であっても、大症状全てを満たす場合はWAGR症候群と確定される。

C.鑑別診断

以下の疾患を鑑別する。

11p13欠失によらない無虹彩症

D.遺伝学的検査

1.染色体11p13領域の欠失

<診断のカテゴリー>

Definite:Aのうち大症状のIを認め、PAX6WT1を含む染色体11p13領域の欠失を認めたもの。

Possible:Aのうち大症状のIを認め、染色体11p13領域の欠失を認めたが、欠失領域にPAX6もしくはWT1を含まないもの。

●参考文献●

  1. Yamamoto T et al. (2014). Narrowing of the responsible region for severe developmental delay and autistic behaviors in WAGR syndrome down to 1.6 Mb including PAX6, WT1, and PRRG4. Am J Med Genet A;164A(3):634-8.
  2. Han JC et al. (2013) Association of brain-derived neurotrophic factor (BDNF) haploinsufficiency with lower adaptive behaviour and reduced cognitive functioning in WAGR/11p13 deletion syndrome. Cortex;49(10):2700-10.
  3. de Souza VS et al. (2022). Characterization of Associated Nonclassical Phenotypes in Patients with Deletion in the WAGR Region Identified by Chromosomal Microarray: New Insights and Literature Review. Mol Syndromol;13(4):290-304.
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