研究内容

First はじめに

マイクロアレイ染色体検査という画期的な技術により、従来の検査では見逃されていた微細な染色体異常を発見し、
希少遺伝性疾患の診断と治療に新たな道筋が拓かれています。
2021年10月より保険診療となったこの検査は、多くの患者さんに希望の光をもたらしました。

しかし、マイクロアレイ染色体検査には課題も存在します。
検査結果の複雑性や日本人のデータ不足などが、診断の精度や治療法の開発を阻んでいます。
私たちは、この課題に立ち向かい、希少遺伝性疾患克服を目指します。

About マイクロアレイ
染色体検査とは

染色体は、私たちの体をつくる設計図のようなものです。通常、ヒトは46本の染色体を持っていますが、数が足りない、余分な染色体がある、一部が欠失しているなど、染色体に異常があると、先天性疾患、発達障害、不妊症、悪性腫瘍など、様々な病気の原因となることがあります。
マイクロアレイ染色体検査は、従来の染色体検査よりも高精度で詳細な方法で、これらの染色体異常を検出できる検査です。

マイクロアレイ染色体検査で
できること

  • 染色体の数
    調べる

    染色体が足りない(モノソミー症候群)、余分な染色体がある(トリソミー症候群)などの異常を検出できます。

  • 染色体の構造
    調べる

    染色体の一部が欠損している(欠失症候群)、別の染色体と入れ替わっている(不均衡転座)などの異常を検出できます。

  • 染色体上のDNA量
    を調べる

    染色体の一部の断片が増えている(重複症候群)などの異常を検出できます。

その他の代表的な染色体検査との
違い

マイクロアレイ染色体検査は、その他の従来の染色体検査法と比較して、染色体構造の解析精度や検出感度が飛躍的に向上した検査法です。しかし、それぞれの検査法には、得意分野や適応、限界があります。どの染色体検査を選択するかは、患者の症状、家族歴、医師の判断など、様々な要因によって異なります。

検査名 特徴
マイクロ
アレイ
染色体検査
高い感度と精度で、従来の検査法では検出が困難だった微小な染色体異常や複雑な染色体構造異常も検出できる、新しい染色体検査です。検査結果が出るまでの時間が短く、幅広い臨床ニーズに対応できます。
Gバンド
分染法
染色体の縞模様パターンを観察することで、染色体の構造や数を解析する、染色体検査の基本的な方法です。比較的簡便で安価な検査ですが、感度が低いため、微小な染色体異常を見逃してしまう可能性があります。
SNP法 染色体上のSNPと呼ばれる一塩基多型を解析することで、染色体の構造異常や遺伝子疾患の原因を検出する方法です。保険収載されているマイクロアレイ染色体検査にはSNP法も組み込まれており、ゲノムコピー数変化のない片親性ダイソミーなどを検出することができます。
FISH法 蛍光プローブと呼ばれる標識を用いて、染色体上の特定の領域をピンポイントで解析する方法です。先天性心疾患や白血病など、特定の染色体異常の診断に有効です。
M-FISH
(SKY)法
複数の蛍光色素を用いて、全染色体を多色蛍光染色することで、染色体の構造異常を検出する方法です。マイクロアレイ染色体検査と異なり、染色体全体を可視化することができるため、構造異常を立体的に観察することができます。マイクロアレイ染色体検査の普及により、必要がなくなった検査法です。
高精度
分染法
特殊な染色処理を用いて、Gバンドよりも精度の高い縞模様パターンを得ることで、染色体構造異常を検出する方法です。M-FISH法と同様に、マイクロアレイ染色体検査の普及により必要がなくなった検査法です。

マイクロアレイ染色体検査が
適用にならない場面

臨床症状の原因が染色体異常である可能性があるものの、従来の染色体検査では確定診断が困難な場合にマイクロアレイ染色体検査が考慮されます。ただし、以下のような疾患が疑われる場合に、マイクロアレイ染色体検査は適用になりません。

  • 染色体異常症候群(ダウン症候群、ターナー症候群など)は
    従来の染色体G分染法が適用
  • 特定の遺伝子疾患(先天性代謝異常症、神経筋疾患など)
  • ミトコンドリア遺伝子の病気が疑われる場合
  • 遺伝学的要因以外の要因が疑われる場合

日本で保険診療の対象となるのは、イギリスのサンガーセンターが運営するDECIPHERデータベース(希少遺伝子疾患に関する世界最大級のデータベース)に掲載されている病気のうち、59の病気が該当します。この中には、1p36欠失症候群、4p欠失症候群、5p欠失症候群、スミス・マギニス症候群など、指定難病に登録されている病気も含まれています。

Problem マイクロアレイ染色体
検査の課題

染色体異常の診断に大きく貢献し、多くの期待を集めているマイクロアレイ染色体検査ですが、実はいくつかの課題も存在します。

01 検査結果の解釈が難しい

マイクロアレイ染色体検査は高精度であるがゆえに、結果の解釈は非常に複雑です。医師の中には、この新しい検査結果に慣れていない人もおり、患者さんに適切な説明ができない場合もあります。その背景には、以下の4つの主要な要因が複雑に絡み合っています。

要因01. コピー数変化の種類と
大きさの多様性

マイクロアレイ染色体検査では、染色体の欠失・重複(コピー数変化)を詳細に解析することができます。
しかし、検出されるコピー数変化は、数千塩基対から数百万塩基対と幅広く、種類も非常に多様です。この多様性が、結果の解釈を複雑にします。なぜなら、コピー数変化が疾患の原因なのか、疾患とは無関係なバリアント(多型)なのかを判断することが難しい場合があるからです。

例えば、ある患者さんで染色体のごく小さな欠損が見つかった場合、これが発達障害の原因なのか、親から受け継いだ疾患とは無関係な所見なのかを判断するのは容易ではありません。

要因02. 臨床情報との
整合性

マイクロアレイ染色体検査の結果を解釈するには、患者さんの臨床情報と整合性があるかどうか確認することが重要です。
具体的には、症状、家族歴、画像診断の結果などを考慮する必要があります。
しかし、臨床情報が十分でない場合や、症状とコピー数変化との関連性が明確でない場合は、解釈が難しくなります。

例えば、欠失すると重篤な症状を引き起こすことがわかっている領域が重複していることが判明したとしても、その部分の重複が何らかの疾患の原因となるかどうかわからない場合があります。

要因03. 遺伝子機能に関する
情報の不足

コピー数変化がどの遺伝子に影響を与えているのかを特定することは、解釈の重要なステップです。
しかし、すべての遺伝子の機能が完全には解明されていないため、影響を推測することが困難な場合があります。
また、遺伝子から少し離れた場所の変化が影響を与える可能性があります。

例えば、ある患者さんで、過去にほとんど報告のない欠失が見つかり、その領域に複数の遺伝子が含まれていたとしても、患者さんの症状と直接の関わりがあると考えられる遺伝子が見つからないことがあります。そのような場合、その欠失が本当に患者さんの症状の原因なのかどうか、推測するのが難しくなります。

要因04. データベースの
不完全性

マイクロアレイ染色体検査の結果を解釈するために、過去の検査結果や研究結果を参考にする必要があります。しかし、データベースに登録されているデータは完全ではなく、最新の情報が反映されていない場合があります。この不完全性が、誤った解釈につながる可能性があります。

例えば、ある患者さんでの小さな欠失が見つかった場合、データベースで過去の症例を検索しても、類似の症例が見つからない可能性があります。これは、データベースに登録されている症例がすべてではないため、または患者さんの欠損が非常にまれなためである可能性があります。

02 日本人のデータが少ない

日本におけるマイクロアレイ染色体検査データ不足は、欧米諸国との比較すると問題です。
その背景には、検査体制の遅れ、検査費用の高さ、研究者数の不足、そして国民や医療従事者の理解不足など、様々な要因が複合的に絡み合っています。
より正確に検査結果を解釈できるよう、日本人のデータ収集が進められています。

Effort 当研究班による取り組み

当研究班では、先述した課題を克服し、より多くの人々に質の高い医療を提供するために、以下の4つの取り組みを進めています。

01 「疾患概要」と
「診断の手引き」の作成

病気の概要、原因、症状、治療法などをわかりやすくまとめた「疾患概要」の作成と、診断を受けた患者さんやご家族が、スムーズに適切な医療や福祉のサポートを受けられるように「診断の手引き」を作成しています。

02 診断基準や診療ガイドラインの
策定に必要なデータ収集

マイクロアレイ染色体検査は欧米で広く普及していますが、日本人のデータはまだまだ不足しています。そこで、当研究班は、全国の医療機関から日本人のCNVデータ(染色体上の遺伝子のコピー数が正常と異なる場合の情報)を集め、指定難病に含まれていない染色体微細構造異常症候群という希少な疾患を持つ患者さんの実態調査を行い、病気の診断基準や治療指針となる診療ガイドラインの策定に役立てています。
このデータ収集にご協力いただける方はこちらをご覧ください。

研究連携

03 希少疾患患者さんの
当事者団体の立ち上げサポート

希少疾患は、患者数が非常に少なく、社会的な認知度も低い病気です。そのため、希少疾患患者さんは、情報や支援を得ることが難しい状況にあります。
このような状況の中で、希少疾患患者さん同士が繋がり、情報や支え合いを得られる場として重要な役割を果たすのが当事者団体です。しかし、当事者団体を立ち上げ、運営するのは容易ではありません。そこで、私たちは希少疾患患者さんの当事者団体の立ち上げをサポートし、患者さん同士が情報交換し、お互いを支え合えるような場を提供することで、孤立感を解消し、より良い生活を送れるよう支援します。

家族会のご案内

04 小児期から成人期まで切れ目のない移行医療体制の構築の検討

マイクロアレイ染色体検査で染色体異常が検出された場合、小児期から成人期まで継続的な医療が必要となります。しかし、小児医療と成人医療の間には制度や体制の違いがあり、患者さんはスムーズな移行を受けられないことがあります。
そこで、私たちは小児から成人までの切れ目ない移行医療体制の構築を検討し、患者さんに最適な医療を提供できる体制を目指します。

Vision 当研究班が目指すもの

研究班が目指すのは、
マイクロアレイ染色体検査によって診断された患者さんたちが、より良い医療を受けられ、社会生活を送れるようにすることです。
つまり、この研究は、

  • 新しい検査手法の
    普及に伴う課題解決
  • 希少疾患患者の
    生活の質向上
  • 医療体制の改善

という3つの大きな目標を掲げています。
この研究を通して、マイクロアレイ染色体検査という新たなツールを最大限に活用し、
希少疾患を持つ患者さんたちをサポートする体制を構築していくことが期待されます。

Organizational chart 研究活動図

診断・診療体制構築のための研究は、単独の研究者によって成し遂げられるものではありません。この研究は、様々な分野の専門家たちと連携し、それぞれの知識と経験を活かして協力することで、初めて成果を上げることができます。研究には、以下のような多様な人々が関わっています。

Contact お問い合わせ

研究内容の関するご質問や、診断に苦慮されている症例などございましたらお気軽にお問合せください。

お問い合わせはこちらまで

〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
東京女子医科大学ゲノム診療科
研究代表者 山本俊至

FAX.03-3353-8112 ext24013

yamamoto.toshiyuki[a]twmu.ac.jp
※実際にメールを送信する場合は[a]を
@に変換して下さい。

TOP