疾患概要
(研究者・医療関係者の方向け)

3q29微細欠失/重複症候群

○概要

  1. 概要 染色体3q29領域の, 約1.6-Mb程度の領域におけるヘテロ接合性の欠失または重複により引き起こされる症候群である。微細欠失症候群では, 神経発達症及び種々の精神症状を中心に, 成長障害, 摂食障害, 筋骨格系の異常, 特徴的な顔貌など, 様々な症候を伴うことが知られている。 微細重複症候群も神経発達症を中心に様々な臨床症状を呈することが知られており, 障害される臓器は微細欠失症候群と同様の傾向があるとする報告もある。いずれも, 無症状の両親からコピー数異常を遺伝して発症した報告があり, 不完全浸透と報告されている。
  2. 原因 微細欠失症候群の大半は発端者におけるde novoの欠失により発症する。染色体3q29領域に存在するLCRs (Low copy repeats)により惹起される, 非対立遺伝子相同組換え(NAHR)により疾患責任領域が欠失する。責任遺伝子は確立されていないが, 同領域に含まれるDLG1やPAK2が原因遺伝子と推定されている。
  3. 症状 微細欠失症候群では, 知的能力障害, 書字障害, 神経発達症(ASD, ADHD), 精神症状(不安障害, 統合失調症など)といった精神神経症状を始めとして, 成長障害, 眼異常(斜視, 乱視など), 歯牙の異常(歯列の異常など), 心血管系の異常, 消化管障害(胃食道逆流症, 摂食障害, 便秘など), 筋骨格系の異常(胸郭形成異常, 四肢末端の異常など), 夜尿症といった, 全身の臓器に関連した症状が高頻度に認められる。
    微細重複症候群では, 知的能力障害, 神経発達症, 発語の遅れ, 眼異常, 心血管系の異常, 歯牙の異常, 消化管障害, 摂食障害, 痙攣などの症状が認められる。微細欠失及び重複症候群で傷害される臓器はそれぞれ同様の傾向があると考えられているが, 各疾患の合併頻度や乳児期以降の体重増加など, 種々の相違点が指摘されている。
     微細重複症候群より微細欠失症候群の方が一般的に症状が重い。
  4. 治療法 根本的な治療法はない。患者に認められる症状は多彩であり, 個々の患者の病状に合わせた治療が必要である。特に, 眼科, 歯科, 心血管, 消化管, 腎泌尿器, 神経・発達に関する合併症については, 優先的なケアが望まれる。
  5. 予後 生命予後が不良であるという報告はない。神経発達症及び精神科的症状に対しては, 生涯を通したケアが必要となる。

○要件の判定に必要な事項

  1. 患者数 微細欠失症候群は, 約30,000出生に対して1人と推定する報告がある。微細重複症候群は, 約8,000〜75,000出生に対して1人と推定する報告がある。また, 神経疾患の原因検索のため精査を行われた症例の中では, 2,000例につき1例とする報告がある。
  2. 発病の機構 患者のほぼ全ては生殖細胞系列における突然変異によって生じると考えられている。
  3. 効果的な治療方法 未確立 (根本的な治療法はない)
  4. 長期の療養 必要 (生涯にわたり症状が持続する)
  5. 診断基準 あり(研究班が作成した診断基準あり)
  6. 重症度分類 以下の1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
    1. 難治性てんかんの場合。
    2. modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上の場合。
    3. 先天性心疾患があり、NYHA分類でII度以上に該当する場合。

<診断基準>

Definiteを対象とする。
3q29微細欠失/重複症候群の診断基準

A.症状

【大症状】 I. 知的能力障害(IQ70未満) *Iは必須項目。 II. 神経発達症 (ASD, ADHD, 不安障害, 摂食障害) 【小症状】(合併しうる症状) I. 成長障害 II. 消化器症状 (胃食道逆流症や便秘症) III. 眼科異常 IV. 歯牙異常 V. 先天性心疾患 VI. 特徴的顔貌

B.検査所見

上記症状よりマイクロアレイ染色体検査を含む何らかの遺伝学的検査を実施し、3番染色体長腕q29領域の欠失/重複を確認することにより確定される。ただし、重複領域にDLG1、PAK2を含んでいること。

C.鑑別診断

以下の疾患を鑑別する。
他の染色体微細構造異常による症候群

D.遺伝学的検査

  1. 染色体3q29領域の欠失/重複

<診断のカテゴリー>

Definite:Aのうち大症状のIを認め、DLG1、PAK2を含む染色体3q29領域の欠失/重複を認めたもの。

<重症度分類>

以下の1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。

  1. 難治性てんかんの場合:主な抗てんかん薬2~3種類以上の単剤あるいは多剤併用で、かつ十分量で、2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されず日常生活に支障を来す状態(日本神経学会による定義)。
  2. modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
  3. 先天性心疾患があり、NYHA分類でII度以上に該当する場合。

●参考文献●

  1. Coyan AG, Dyer LM. (2020) 3q29 microduplication syndrome: Clinical and molecular description of eleven new cases. Eur J Med Genet; 63(12):104083.
  2. Sanchez Russo R, et al. (2021) Deep phenotyping in 3q29 deletion syndrome: recommendations for clinical care. Genet Med; 23(5):872-80.
  3. Pollak RM, et al. (2020) New phenotypes associated with 3q29 duplication syndrome: Results from the 3q29 registry. Am J Med Genet A; 182(5):1152-66.
  4. Mulle JG, et al. (2016) 3q29 Recurrent Deletion. In: Adam MP, Everman DB, Mirzaa GM, et al., eds. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; September 22.
  5. Khan WA, et al. (2019) Familial inheritance of the 3q29 microdeletion syndrome: case report and review. BMC Med Genomics; 12(1):51.
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