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17q12重複症候群
概要
1. 概要
17q12重複症候群は、17番染色体q12の1.4Mbの領域がヘテロ接合性に反復重複することで発症する常染色体顕性遺伝性疾患である。主要な特徴として、言語発達の遅れ、筋緊張低下、運動発達の遅れなどが挙げられるが、発達遅滞の程度は軽度から重度まで幅広く、他にも多様な臨床症状を呈する。自閉スペクトラム症や統合失調症、行動異常(攻撃性や自傷行為)などの精神・行動上の問題も報告されている。てんかん発作、小頭症、眼科的所見、内分泌疾患、成長障害、腎臓や心臓の疾患等も報告されている。浸透率は不完全であり、症状の重さや種類は患者によって大きく異なる。
2. 原因
17q12重複症候群は、17番染色体q12領域に1.4Mbの重複が生じることで発症する。重複は約90%が親から子へと常染色体顕性遺伝形式で引き継がれ、約10%は新生変異として生じるが、重複を持つ親の症状が軽微であったり、全く症状が見られない場合もある。
3. 症状
下記のような多彩な症状を示す。
-発達遅滞もしくは知的発達症: 知的能力の範囲は正常から重度まで幅広く、71%の患者で発達遅滞もしくは知的発達症が見られる。言語発達の遅れも65%の患者に見られる。
– 筋緊張低下と運動発達遅滞: 患者の49~73%に筋緊張低下(筋肉の弱さ)や運動発達の遅れが報告されている。
– 行動および精神障害:統合失調症、攻撃性や自傷行為などの行動異常が一部の患者で見られる。
– てんかん: 約36%の患者がてんかん発作を経験している。
– 小頭症と脳の所見: 約40%の患者が小頭症を患い、脳のMRIで何らかの所見が確認される場合がある。
– 眼科的所見: 28%の患者で斜視、乱視、白内障などが報告されている。
– 成長障害: 22%の患者で低身長が見られ、一部では高身長(6%)も報告されている。
– 内分泌疾患: 26%の患者で糖尿病、成長ホルモン不足、電解質異常などの内分泌系の異常が確認されている。
– 心疾患・腎疾患: 小さな心室中隔欠損や馬蹄腎、腎嚢胞などが報告されている。
4. 治療法
根本的な治療法は存在しない。患者に認められる症状は多彩であり、個々の患者の病状に合わせた治療が必要である。知的発達症や神経発達症に対しては、生涯を通じたケアが必要である。治療は症状に応じて個別に行われる。発達遅延や知的発達症がある場合、神経発達小児科医や臨床心理士、精神科医による評価が必要である。てんかん発作は神経科医による標準的な治療が行われる。視力、内分泌、心臓、腎臓の疾患がある場合は、それぞれの専門医が管理する。定期的な精神運動発達の評価や心理評価、発作の新規発症の監視、栄養状態の評価が推奨される。また、家族のニーズに応じたサポートが提供されることが望まれる。
5. 予後
生命予後が不良であるという報告はない。知的発達症や神経発達症の程度はさまざまであり、全体的な予後は早期診断と適切な治療によって改善が期待される。また、てんかん発作や行動異常などの症状を適切に管理することで、患者の生活の質を向上させることができる。
要件の判定に必要な事項
1. 患者数
約2443~2675出生に対して1人と推定する海外からの報告があるが、本邦での患者数は不明である。
2. 発病の機構
染色体17q12領域の約1.4 Mbの重複が原因であり、生殖細胞における減数分裂時の非アリル間相同組み換えによって生じる。
3. 効果的な治療方法
未確立(対症療法のみ)
4. 長期の療養
必要(生涯にわたり症状が持続する)
5. 診断基準
あり(研究班が作成した診断基準が存在する)
6. 重症度分類
以下の1~3のいずれかに該当する者を対象とする。
1) 薬剤抵抗性てんかんの場合:主な抗てんかん薬2~3種類以上の単剤あるいは多剤併用で、かつ十分量で2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されず日常生活に支障を来す状態(日本神経学会による定義)。
2) modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上の場合。
3) 先天性心疾患があり、NYHA分類でII度以上に該当する場合。
情報提供元
「マイクロアレイ染色体検査で明らかになる染色体微細構造異常症候群を示す小児から成人のより良い診断・診療体制の構築」研究班
研究代表者 東京女子医科大学 教授 山本俊至
診断基準
Definiteを対象とする。
17q12反復重複症候群の診断基準
A. 症状
【大症状】
I. 発達遅滞あるいは知的発達症
II. 神経発達症(自閉スペクトラム症、ADHD)
III. 精神症状(不安障害、限局性恐怖症、選択的寡黙、反抗的態度など)
IV. 特徴的顔貌(大頭症、短頭症、幅広い前額部、直線的な眉、くぼんだ眼、長いまつ毛、広い鼻根、低く付着した鼻柱、短い人中、薄い上口唇、高い口蓋、小顎症、顔面の左右非対称)
【小症状】(合併しうる症状)
I. 心血管疾患:上行大動脈の拡張、PDA、中隔欠損症など
II. 低身長(約17%)
III. てんかん
IV. 中枢神経MRIの所見
B. 検査所見
本症候群に特異的な検査所見はない。以下の所見を認める場合がある。
脳MRI:脳形成異常
脳波:脳波異常
心臓超音波検査:先天性心疾患
C. 鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
その他の染色体微細構造異常による症候群
D. 遺伝学的検査
何らかの遺伝学的検査により染色体17q12領域の重複を認める。
<診断のカテゴリー>
Definite:Aのうち大症状のIあるいはIIを認め、Dの遺伝学的検査所見を満たしたもの。
Possible:Aのうちいくつかの症状を認めたもの。
<重症度分類>
以下の1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)薬剤抵抗性てんかんの場合。
2)modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上の場合。

日本脳卒中学会版
食事・栄養 (N)
0. 症候なし。
1. 時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2. 食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3. 食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4. 補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5. 全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸 (R)
0. 症候なし。
1. 肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2. 呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3. 呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4. 喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5. 気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
3)先天性心疾患があり、NYHA分類でII度以上に該当する場合。
NYHA分類

NYHA: New York Heart Association
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。

※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、
「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。
●参考文献●
- Mefford H. 17q12 Recurrent Duplication. 2016 Feb 25 [Updated 2022 Jan 13]. In: Adam MP, Feldman J, Mirzaa GM, et al., editors. GeneReviews® [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2024. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK344340/