疾患概要
(研究者・医療関係者の方向け)

ELNを含む7q11.23重複症候群

概要

  1. 概要 染色体7q11.23の約1.5 Mbに渡る領域は, 欠失するとWilliams症候群を来すことが知られている。同領域の重複によって生じる本症候群は, 2005年に初めて報告された。本症候群の中核をなす臨床症状としては, 言語発達遅滞, 発語の遅れ, 神経発達症, 不安障害, 特徴的顔貌などが挙げられる。Williams症候群と比較すると, 臨床症状には種々の違いが認められている。例えば, Williams症候群ではELN (エラスチン)遺伝子の欠失により大動脈弁上狭窄などの先天性心疾患が問題となるが, 7q11.23微細重複症候群においては, 同部位の拡張を来すことが知られている。他にも, 性格・行動面の特徴や頭蓋内所見などについて, 両症候群で対照的な所見を呈することが示唆されている。
  2. 原因 染色体7q11.23領域の約1.5-1.8 Mbの重複が原因である。両切断端に位置する分節的反復配列により惹起される非アリル間相同組換えによってコピー数変化が引き起こされる。本疾患は, 複数の遺伝子が重複することで発症する隣接遺伝子症候群と考えられており, 疾患原因となる単一の遺伝子は解明されていない。しかし, 心疾患にはELNが関与しており, 近年ではGTF2Iが行動障害に関与していることが指摘されている。
  3. 症状 運動あるいは言語における発達の遅れはほぼ必発である。多くの患者で神経学的な異常所見(低緊張, 歩行や静止の異常, 不随意運動など)が認められ, 言語発達遅滞, または構音障害が目立つ。独歩は中央値 1.3歳, 初語は中央値 2.0歳と報告されている。行動障害としては, 不安障害, 限局性恐怖症, ADHD, ASDなどが認められる。IQは平均で53である。特徴的顔貌として, 大頭症, 短頭症, 幅広い前額部, 直線的な眉, くぼんだ眼, 長いまつ毛, 広い鼻根, 低く付着した鼻柱, 短い人中, 薄い上口唇, 高い口蓋, 小顎症などが認められ, これらの特徴によりある程度認知可能であることが示唆されている。他に比較的多く認められる症候としては, 心血管所見(PDAや大動脈拡張など), 消化器症状(摂食障害や慢性的な便秘など), 筋骨格系の症状(関節弛緩症など), 低身長などが挙げられる。行動面においては, Williams症候群では過度な親密さや社会的に脱抑制的な態度を認めることが多いが, 一方で本症候群ではむしろ不安症・心配性な側面が目立つ。画像検査では80%以上に種々の中枢神経の構造異常が認められる。
  4. 治療法 根本的な治療法はない。患者に認められる症状は多彩であり, 個々の患者の病状に合わせた治療が必要である。知的能力障害・神経発達症に対しては障害を通じたケアが必要である。乳児期には体重増加不良によりチューブ栄養を要することがある。中枢神経の構造異常(水頭症など)や心血管系異常, 消化器系異常に対し, 手術加療を要することもある。構語障害や言語発達遅滞は幼児期より出現するため, 早期からの介入が必要である。低緊張や歩行・静止の異常について, 理学的療法が必要となる。慢性便秘は小児期に問題となる症候の一つであり, 適切な治療介入が必要である。痙攣に対しても内服加療を要する場合がある。不安障害・恐怖症などの神経症に対しては時に内服加療を含めた治療を要し, 成人期以降も必要となる場合がある。
  5. 予後 生命予後が不良であるという報告はない。一方で痙攣による突然死の報告もあり, 注意が必要である。神経発達症, 知的能力障害, 及び精神科的症状に対しては, 生涯を通したケアが必要となる。成人期以降も不安症や恐怖症に対してケアが必要になることがある。学歴の取得や一般就労している例の報告もある。その他の神経学的異常がどの程度成人期まで移行するかは現時点では不明である。

○要件の判定に必要な事項

  1. 患者数 約7,500-20,000出生に対して1人と推定する報告がある。また, 海外では2021年時点で約150例以上と報告されている。本邦での罹患頻度は不明である。
  2. 発病の機構 染色体7q11.23領域の約1.5-1.8 Mbの重複が原因であり、生殖細胞における減数分裂時の非アリル間相同組み換えによって生じる。
  3. 効果的な治療方法 未確立 (根本的な治療法はない)
  4. 長期の療養 必要 (生涯にわたり症状が持続する)
  5. 診断基準 あり(研究班が作成した診断基準あり)
  6. 重症度分類 以下の1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
    1. 難治性てんかんの場合。
    2. modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上の場合。
    3. 先天性心疾患があり、NYHA分類でII度以上に該当する場合。

○情報提供元

「マイクロアレイ染色体検査で明らかになる染色体微細構造異常症候群を示す小児から成人の診断・診療体制の構築」研究班
研究代表者 東京女子医科大学 教授 山本俊至

<診断基準>

Definiteを対象とする。
ELNを含む7q11.23重複症候群の診断基準

A.症状

【大症状】 I. 知的能力障害(IQ70未満) *Iは必須項目。 II. 神経発達症(不安障害, 限局性恐怖症, 選択的寡黙, ADHD, ASD, 反抗的態度) III. 特徴的顔貌(大頭症, 短頭症, 幅広い前額部, 直線的な眉, くぼんだ眼, 長いまつ毛, 広い鼻根, 低く付着した鼻柱, 短い人中, 薄い上口唇, 高い口蓋, 小顎症, 顔面の左右非対称) IV. てんかん発作(てんかん発作のタイプは様々であり、点頭てんかんを生じる場合もある。) 【小症状】(合併しうる症状) I. 心血管疾患:上行大動脈の拡張(46%), PDA, 中隔欠損症など II. 痙攣 (約18%) III. 低身長 (約17%) IV. 中枢神経の構造異常

B.検査所見

上記症状よりマイクロアレイ染色体検査を含む何らかの遺伝学的検査を実施し、7番染色体長腕q11.23領域の重複を確認することにより確定される。ただし、重複領域にELNとGTF2Iを含んでいること。

C.鑑別診断

以下の疾患を鑑別する。
他の染色体微細構造異常による症候群

D.遺伝学的検査

  1. 染色体7q11.23領域の重複

<診断のカテゴリー>

Definite:Aのうち大症状のIを認め、染色体17p11.2領域の重複を認めたもの。

<重症度分類>

以下の1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。

  1. 難治性てんかんの場合:主な抗てんかん薬2~3種類以上の単剤あるいは多剤併用で、かつ十分量で、2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されず日常生活に支障を来す状態(日本神経学会による定義)。
  2. modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
  3. 先天性心疾患があり、NYHA分類でII度以上に該当する場合。

●参考文献●

  1. Osborne LR, Mervis CB. (2021) 7q11.23 deletion and duplication. Curr Opin Genet Dev; 68:41-8.
  2. Morris CA, et al. (2015) 7q11.23 Duplication syndrome: Physical characteristics and natural history. Am J Med Genet A; 167A(12):2916-2935.
  3. Mervis CB, et al. (2015) 7q11.23 Duplication Syndrome. In: Adam MP, Everman DB, Mirzaa GM, et al., eds. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; November 25.
  4. Dentici ML, et al. (2020) 7q11.23 Microduplication Syndrome: Clinical and Neurobehavioral Profiling. Brain Sci; 10(11):839.
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