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脳肺甲状腺症候群(NKX2-1関連疾患・14q13.3欠失症候群)
○概要
- 概要 NKX2-1の異常により生じる、舞踏病、先天性甲状腺機能低下症、および新生児拘束性肺疾患を三主張とする疾患である。
- 原因 14q13.3に位置するNKX2-1(NK2 homeobox 1)のハプロ不全による常染色体顕性遺伝疾患である(点変異もしくは本遺伝子を含む隣接遺伝子症候群)。約80%は機能喪失型点変異による。NKX2-1は転写因子である。良性遺伝性舞踏病、脳肺甲状腺症候群(brain-lung-thyroid syndrome)やChoreoathetosis, hypothyroidism, and neonatal respiratory distressなどと呼ばれる。約半数の症例で三主張がすべてそろわないため、ここではNKX2-1関連疾患とよぶ。
- 症状 下記3主徴が揃うのは約50%、神経症状と甲状腺疾患が約30%、約13%は舞踏病のみである。同一家系内でも個人差が大きく、症状はさまざまである。
- 神経 舞踏病を認める。多くは新生児期に発症するが、小児期~成人期に発症する例もある。非進行性で生涯継続するが、症状は自然軽快することもある。そのほか筋緊張低下、ミオクローヌス、ジストニア、振戦や失調などが報告されている。一般に知的には正常である。
- 肺 約半数で新生児期に拘束性肺障害を認める。また若年での間質性肺疾患や肺がんの発症率が高くなるため、本症と診断された場合は定期的な肺のサーベイランス(肺機能、X線やCTなどの画像)が推奨される。
- 甲状腺 約2/3で先天性甲状腺機能低下症と診断される。その場合、新生児スクリーニングで甲状腺機能低下症が指摘される。新生児スクリーニング異常がなくても定期的な甲状腺機能検査が推奨される。
- 治療法 根本的な治療法はなく、対症療法が中心となる。患者の症状の程度に応じた包括的な療養が望まれる。
- 神経症状:舞踏病などの神経症状に対してtetrabenazine、deutetrabenazine、valbenazineやLevodopaなどが用いられる。
- 肺:呼吸状態に応じた治療を行う。人工呼吸器管理などの呼吸サポートが必要となることもある。
- 甲状腺:甲状腺ホルモンの補充療法を行う。
- 予後 舞踏病は非進行性で、生涯にわたって継続する。一部の症例は自然軽快する。肺病変は間質障害を認め、継続した治療が必要となる。生命予後は肺がんなど合併症による。
○要件の判定に必要な事項
- 患者数 本邦での発症頻度は不明。
- 発病の機構 正確な発症機序は不明である。
- 効果的な治療方法 未確立 (根本的な治療法はない。)
- 長期の療養 必要 (生涯にわたり, 症状に応じたケアが必要である。)
- 診断基準 あり(研究班が作成した診断基準あり)
- 重症度分類 以下の1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
- 舞踏病などの神経症状に対し、投薬を必要とする場合。
- 拘束性肺障害などの肺症状に対し、投薬や呼吸サポートが必要となる場合。
- 先天性甲状腺機能低下症に対し、継続した甲状腺ホルモン補充療法が必要となる場合。
○情報提供元
「マイクロアレイ染色体検査で明らかになる染色体微細構造異常症候群を示す小児から成人のより良い診断・診療体制の構築」研究班
研究代表者 東京女子医科大学 教授 山本俊至
<診断基準>
Definiteを対象とする。
脳肺甲状腺症候群(NKX2-1関連疾患・14q13.3欠失症候群)の診断基準
A.症状
【大症状】 I. 舞踏病またはその他の不随意運動 *Iは必須項目。 II. 新生児拘束性肺障害 III. 先天性甲状腺機能低下症
B.検査所見
本症候群に特異的な検査所見はない。以下の所見を認める場合がある。
- 頭部MRIでは異常を認めないことが多く、神経症状は神経専門医によって評価される。
- 肺機能検査、胸部CTでの拘束性・間質性障害を認める
- 甲状腺機能検査での異常を認める
C.鑑別診断
他の舞踏病関連疾患を鑑別する:ハンチントン病、脊髄小脳変性症、Wilson病などを除外する。
D.遺伝学的検査
何らかの遺伝学的検査によりNKX2-1の病的バリアント(点変異もしくは欠失)あるいはNKX2-1を含む染色体14q13.3領域の欠失を認める。
<診断のカテゴリー>
Definite:Aのうち大症状のIを認め、Dの遺伝学的検査所見を満たしたもの。
<重症度分類>
以下の1)~2)のいずれかに該当する者を対象とする。
- 本症候群を原因とし、神経症状、肺疾患または先天性甲状腺機能低下症に対し投薬もしくは呼吸サポートを必要とするもの。
- modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上の場合。
●参考文献●
- Patel NJ, Jankovic J. NKX2-1-Related Disorders. 2014 Feb 20 [Updated 2023 Jun 29]. In: Adam MP, Feldman J, Mirzaa GM, et al., editors. GeneReviews® [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2024. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK185066/
- Machida O, Sakamoto H, Yamamoto KS, Hasegawa Y, Nii S, Okada H, Nishikawa K, Sumimoto SI, Nishi E, Okamoto N, Yamamoto T. Haploinsufficiency of NKX2-1 is likely to contribute to developmental delay involving 14q13 microdeletions. Intractable Rare Dis Res. 2024 Feb;13(1):36-41. doi: 10.5582/irdr.2023.01119. PMID: 38404736; PMCID: PMC10883847.